コラム「ナンピン戦略考」 【ナンピン戦略】 あるギャンブラーがこんな戦略で賭けに臨むことになりました。 最大で2回までの賭けることができます。 まず、初回は、黒と赤のルーレットで1000円を賭けます。 勝ったら、その時点でゲームを降ります。 ルーレットは公正であり、勝率は50%とします。 負けたら、2回目に挑戦します。 が、その際は、1回目の倍の掛け金である2000円を賭けます。 2回目の勝負で勝っても、負けても、どちらにせよ、ゲームはこれで終了です。 さて、このシステム売買のメリットとデメリットは何でしょうか。 【勝率、期待値は?】 メリットは、勝率が高いことです。 2回続けて負ける確率は1/4しかありません。 つまり、勝率は75%です。 デメリットは、勝っても1000円しか手に入りませんが、 負けると3000円も失うことです。 期待値は、ゼロです。 期待値=勝った金額×勝率 − 負けた金額×(1−勝率) =1000円×3/4 − 3000円×1/4 = 0円 となります。 この売買思想は、「ナンピン」といい、投資家に幅広く支持されている人気 戦略です。 ナンピンすることで、勝率を劇的に高めることができます。 しかし、問題点も明らかです。 まず、期待値を上げることはできません。 そして、負ける確率は小さいものの、負けた場合の損失が莫大になるというこ とです。 負けたときの損失がかなり大きくなるために、勝率がいくら上がっても、期待 値が上がらないのです。 株式投資でナンピンとは、つまり、買い下がり戦略です。 買い下がることによって、平均コストを下げていくのです。 ただ、等金額分を何回に分けて買い下がっても、買いコストはなかなか下がり ません。 そこで、たとえば、10%下がったら、初回の倍の金額を買うということにす れば、買いコストは、ナンピン時のコストに近づきます。 そして、そのためには、最初の打診買いをほどほどの金額にしておく必要があ ります。 たとえば、ファンドの1%を打診買いにあて、まさかのナンピン時には、追加 で2%を買う。 その後、さらに下落した場合は、4%を買い足す。それ以上のやられるような ことがあれば、損切りするとしましょう。 以上の具体例は、3連敗は許されませんが、連敗なら取り戻すことができると いうナンピン戦略です。 いま流行のヘッジファンドでは、最大で1銘柄でファンド5〜10%まで投資 できるという目論見書上のリスク管理を設定しています。 しかし、実際の運用上は、10%を投資することはまずありません。 平均的には1銘柄はファンドの1%〜3%の間という場合が多いのです。 つまり、ある程度、ナンピンができる余地を残しておくのです。 機関投資家も、ナンピンを多用しているのです。 【勝つまでやるという戦略】 勝つまでやるという戦略をとったとしましょう。 1回あたりの勝負の勝率をpとします。 勝つまでやるということですから、最初の勝負で勝ったら、その時点でゲーム は終わります。 5回目に初めて勝ったとすれば、4連敗後に初勝利を収めたことになります。 平均すると勝つまで何回かかるかは、N回かかるとしましょう。 確率論からは、Eの期待値、E[N]は、1/p回となります。 つまり、勝率が50%なら、平均的に勝つまでに、2回トライすればよいとい うことになります。 E[N]=勝つまでの回数の期待値 = Σn×p(N=n)=1×p +2×(1−p)p + 3 × (1−p)^2*p+・・・ を計算すれば、1/pとなります。 勝ちパターンを確立している方は、いわば、高い勝率を達成できる人です。 勝率が40%の方が平均的に勝つまで2−3回は要するのに対して、 勝率が60%の方は、1−2回でよいということがわかります。 勝つまでやり、それぞれ、一回の勝負が独立しているとすれば、これを確率モ デルでは、 GEOMETRIC、ジオメトリックといいます。 勝つまでの回数をN回とします。 すると、その分散を計算してみると、計算過程は省きますが、 (1−p)/(p^2)となります。 分散が、負け率(1−p)を勝率pの2乗(=p^2)で除したものになると いうことは、何を意味しているのでしょうか。 それは、勝率が高い人は、勝つまでに要する回数が少ないばかりではなく、そ のブレ(分散)が驚異的に小さいことを意味します。 勝率40%の人のNの分散は、 V[N]=0.6÷0.16=3.75 でおよそ4回となります。 勝率の低い方は、2−3回目で初めて勝利することが見込まれます。 しかし、分散が大きく、4連敗、5連敗することも多いのです。 一方で、勝率が60%の人のNの分散はどうでしょうか。 同様に、V[N]=0.4÷0.36=1.1〜わずか1回です。 勝率60%の人は、初めて勝利するまでに要する回数が1−2回と短いだけで はないのです。 その分散がわずか1回ということは、3連敗することが珍しいといえるのです。 このことから、株式投資が下手な人が、ナンピン戦略をとると、非常に危険で あるということがわかると思います。 また、投資が上手な人にとっては、ナンピンは、極めて有効なツールだといえ るのです。 上手な人にとっては、勝利を確実にする戦略、それがナンピンなのです。 投資の本質的な部分は、勝率です。 ナンピンに頼ることなしに、勝てる高質のトレードをすることが分散を抑え、 期待値を上げることになります。 勝率の高いトレードができるようになって、はじめて、ナンピンが使えるよう になるのです。 ですから、個人投資家の大多数を占める投資の初心者は、売買の基本が定まら ずに投資判断がぶれるうちは、ナンピンを使うべきではないと考えています。 (山本 潤 ゆっくり考え ゆったり投資 スロー・インベストメント)